AIの開発とは、ユーザのデータからカテゴリの分類や値の推定を行うモデルを作ることであり、そのときに使う主なデータがアクティビティログ(ユーザの行動履歴)やユーザの属性情報です。それらのデータを使うことでユーザ自身が気づいていない癖が見え来ることもあります。では、その際に使われるデータは誰のものでしょうか?データを保持している運営会社のものでしょうか?ユーザから生まれたのでユーザのものでしょうか?
これを定めるのが法律です。といういきなり格式張った文章から始まりましたが、今回はAIと法の関わりについての本を読んだので、ヒーローショーを見終わったあとに子供がなりきるように、法律家の方の思考法に触発されております。
今回読んだ本は『AIの時代と法』です。この本を読むと、法律を作るために、様々なことが検討されて試行錯誤されていることがわかります。最終的に出来上がる条文にたどり着くまでに紆余曲折があり、try and errorの上で成り立っています。まさしく、AIの学習法とおなじですね。また、法律はしてはいけないことが書かれていると思われがちですが、法律により運営者のやっていいいことが明文化されるので、サービスがやりやすくなるという側面もあります。この点からAI開発者は知っておいた方が良いなと思いますが、社会のルールを決めるための過程を学ぶという点では、どのよう方が読んでも面白いかと思います。
日本の現在(2020年10月)の法律では、ユーザの同意のもとにユーザのデータを統計処理しても良いことになっています。それは、AIサービースを成熟させたいという思想が根底にあるからです。AIサービスを適切なルールのもとに成り立たせるために一定の縛りを作る一方で、その縛りによりサービスが萎縮しないようにするといった配慮が見られます。完全自由だと逆にサービスが成熟しないというのは面白い視点です。
日本の統計処理に関する法は、世界とは異なっており、特にEUのGDPRとは思想がかなり違います。GDPRは個人のデータ保護を重視する側面が強く、個人のデータを強固に守る必要があるという意思を感じられます。ただし、そのことでユーザのデータを使う場合はいちいちユーザの許可が必要となり、運営側とユーザ側の双方でめんどくさい確認処理が入るという一面もあります。このように、国による思想の違いを背景とした法律の比較は、多角的な観点がわかって面白いです。
複雑な問題の例
様々な場所でAIの活用が進んでいることから、情報の利用と法律の関係についての難しい問題がいくつかあるようです。
例えば、家族のプライバシーの問題があります。昨今ではすでにスマートスピーカーを利用している家庭があるかと思います。奥さんがそのスマートスピーカーに旦那さんの悪口を言っていた場合に、スピーカー君が気を利かしてとうとうと旦那さんを説教しだしたらどうでしょうか。旦那さん的にはどちらから言われるのがありがたいかはわかりませんが。利用目的を超えてデータを使用する場合は、「本人」の同意が必要です。しかし、家庭内における「本人」とは誰なのかを考えると、難しい問題ですね。
また、人工衛星でのデータ活用の問題もあります。スマートフォンで簡単に使えるGPSは人工衛星から取得していますが、人工衛星からは地上を観測することができ、人工衛星からの観測データは今後使われるようになっていくと思われます。これまでにできなかった農地の管理の仕方や人の動きがわかるようになるという便利な半面、個人の動きが特定されるという問題が起きるようになります。法的な主体は、国内ならば「個人」であり、国家ならば「主権国家」ですが、この問題は国家と個人の境目を越えてしまっています。これまた難しいですね。
以上のようなことに興味を持たれた方はぜひ読んでみほしいです。他にもUBERなどのシェアリングエコノミーの問題やオンライン診療にAIが導入されることの問題などが取り上げられており、技術の進化と社会のルール作りの関係という観点で見ても面白いです。